2016年11月10日木曜日

なぜドナルド・トランプの中国語名に「Telangpu」と「Chuanpu」があるのか

ドナルド・トランプの中国語名には、「唐纳德・特朗普(táng nà dé・tè lǎng pǔ)」と、「―・川普(―・chuān pǔ)」の2通りがある。

ファミリーネームのピンインを敢えて仮名におこすと、前者は「トゥーランプー」、後者は「チュアンプー」とでもなろうか。

どちらが元の語「trump」の発音に近いだろうか? 「te lang pu」の方は、元の子音がより忠実に残されているように見えるが、3音節もあり、元の1音節からはだいぶ長くなってしまってる。一方「chuan pu」の方は、より短い2音節であるものの、元の発音にはない「ch」という子音がある。

中国語名としてどちらが正式なのか、また、どちらが好まれているのかは、少し調べた限りでは私にはわかりかねる。voaでは「川普」が好んで使われているようだが、百度新聞では「特朗普」、「川普」が共に使われている。Wikipediaでは項目名において「川普」、「出生」の欄で「特朗普」が使われている。いずれにせよ、どちらの表記も浸透しているのは確かなようだ。


固有名詞に限らず、一般にことばを借用する時、もう少し正確には、言語Aの語Xを言語Bに音訳するとき、Xは、言語Bの音韻体系に従って多少の改変が行われる。

「トランプ」の例で考えてみよう。(アメリカ)英語における「トランプ」の発音のIPAで表すと、(方言さや厳密さは抜きにして)/trʌmp/となる。「子音・子音・母音・子音・子音」という音の連続である。しかし、中国語(普通話)において、/tr/、/mp/という子音の連続や、音節の最後に/m/や/p/が現れるようなことはあってはならない。つまり、中国語の音韻のルールに違反している。そのため、中国語の音韻規則にあわせて、音が挿入、消去、置換されたりするのだ。

「te lang pu」の場合、/t/のあとに母音を挿入し、/r/を音の近い/l/に換え、/p/の後にまた母音を挿入するなどしている。(もちろん、音韻以外に「漢字の意味」も忘れてはならない重要なファクターだが、ここでの趣旨と関係がないので考えないことにする。)


問題は「川普(chuān pǔ)」である。

/trʌmp/の頭の/tr/が、ピンインの[ch](日本語のチュに近い)に変わっている。実はこれ、英語側の音声学的なカラクリがあって、中国語話者には「チュ」のように聞こえるのである。

専門的には「摩擦化」という現象で、(もちろん方言にもよるが)英語の/t/や/d/に続く/r/は、そろぞれ「チュ」や「ヂュ」に似た音として発声されるのである。(参照

例えば「try」、「drink」、「country」、などは、実際「チャイ」、「ヂンク」、「カンチュイ」のように発音される。(機会があったら、耳を澄ましてきいてみると良い。日本人もそうやって発音すると、ネイティブっぽくなる。)

同様に、/trʌmp/も「トランプ」ではなく「チャンプ」のように発音され、/tr/の子音連続を持たない中国人には「チュ」の類の音に聞こえるというわけである。

私も、上海に旅行した時、ホステルの女性が「train」と言う単語をほとんど「チャイン」と発音していたのをよく覚えている。

上海の新古本屋

それに加え、「川普」という名前が浸透したのも、2音節という長さにカギがある。周知の通り、大半の人名が2音節である中国人にとっては、2音節というのは「座りのいい」リズムなのである。新聞の見出しや格言、キャッチフレーズに四字熟語を多用する中国語において、2音節の言葉はとても都合がいい。例えば「川普赢了(トランプが勝った)」というハッシュタグがweiboを賑やかしているが、「特朗普赢了」ではリズム的に間が抜けているというわけである。

英語側の摩擦化という音声現象と、中国語側の「2音節嗜好」という、2つの要因が互いに作用した結果が、「川普」という訳語なのである。

2016年11月1日火曜日

他言語の情報を探すとき、ふつうのグーグル検索は無力だ

私が日常的にやっている検索のコツだが、先日、人に教えたら感心されたので、書き留めておこう。

要は、ある言語での詳しい情報は、その言語に特化した検索チャネルを使え、という話。

例えば、あなたが趣味で針仕事をやっていて、韓国の刺繍が好きだとしよう。韓国刺繍の写真をちょっと調べてみようと思ったら、ふつうはデフォルトのブラウザで「韓国 刺繍」で画像検索すると思う。例えばgoogle.co.jpで。

しかし、google.co.jpでヒットする検索結果は、ほとんどが日本語である。だが日本語で書かれた韓国刺繍の情報と、韓国語で書かれた韓国刺繍の情報とは、どちらが豊富だろうか。もちろん後者だ。

そこで、現地のグーグルを使うのである。「google korea」と検索すれば、google.co.krにアクセスできる。そこで「korean embroidery」と検索すると、voila!、日本語版で検索したのより量も質もずっといい画像を見ることができるのである。

たとえ私のように韓国語が分からなくても、今のように少しの英語の知識があれば、十分な量の情報が得られる。「刺繍」の英語がわからなければ、グーグル翻訳に突っ込めばいいのだ。


現地の言葉の知識があるなら、得られる情報量はさらに多くなる。

私は大学で中国語を学んだので、多少は読めるし、中国語キーボードの使い方も知っている。日本語のサイトでは絶対に見つからない情報も、見つけることができる。

中国語版グーグルは存在しないので、私は百度(baidu.com)を使う。例えば私の好きな中国の書家のひとり「劉自櫝」を、google.co.jpと百度でそれぞれ検索した結果は、天と地ほどに違う。百度では、劉氏の肖像、略歴はもちろん、作品の写真を何十枚と見ることができる。すばらしい目の保養だ。一方、日本のグーグルでは、めぼしい情報はほとんど出てこない。中国のちょっとディープな情報は、日本の検索エンジンは無力だと言っていい。


さて、おそらく最も需要があるのが、英語圏の情報だろう。

例えば、今イギリスで(たぶん)売れっ子の作曲家、Dexter Britainを日本のグーグルで検索すると、ヒットするのはせいぜい彼のFacebookである(現時点では)。しかし本家のgoogle.comで検索すれば、彼の公式サイトがトップにヒットし、そこから無料で曲も聞くことができる。

google.comは、仕事にも役立っている。先日私は上司から、お客様に渡す名刺サイズのとある割引券を作って欲しいと言われた。私はデザイナーではないので、自力ではプレーンテキスト以上に魅力的な意匠をクリエイトするスキルはない。そこでgoogle.comで「coupon design template(クーポン デザイン テンプレート)」と検索する。得られた豊富な画像を参考に、仕事を遂行することができた。

もちろん日本語でも検索できるが、英語圏と日本語圏ではデザイナーの数が違うので、google.comの方が、洗練されたデザインが多い。

私の場合、あまり頻繁に使うので、私のGoogle Chrome(PC)では「g」と打ってEnterを押すだけでgoogle.comに飛ぶ。

いつもの検索で満足できなかった場合の、ちょっとした裏技でした。