また読んだぜオリバー・サックス博士:「火星の人類学者」

1か月半ほど前に借り、タイワークキャンプのブランクを挟み、10日ほど前に読み終わった本、火星の人類学者―脳神経科医と7人の奇妙な患者 [単行本] / オリヴァー サックス (著); Oliver Sacks (原著); 吉田 利子 (翻訳); 早川書房 (刊)だ。


サックス博士の他著は、先日「妻を帽子と間違えた男」を読んだ(記事はこちら)ので、これが2冊目だ。本書は、様々な障害を持つ(または陥った)7人の人物を取り上げ、博士がその生活を追う。全色覚異常の男性、記憶喪失の男性、異常な記憶力の男性、自閉症にして研究者である女性など、彼らの体験は様々だ。7人のうち3人は、それぞれ高校の授業、テレビ、インターネットで知っていた。

博士の著書に共通することだが、彼は患者を、症状による機械的な捉え方をせず、1人の人間として全人的に見る。患者の抱える異常に隠れた、素晴らしい人間性を見出そうとするのである。そこがよい。人間の(良い方向でも悪い方向でも)可能性を見せてくれると同時に、障害者と言われる人たちの温かみや才能に気付かせてくれるからだ。

そして、彼らを観察することは、私たち人間一般の理解にもつながる。特に私は知覚というものについて色々と思考を巡らさずにはいられなかった。例えば、子供時代に視力を失った中年の男性が、手術で光を取り戻した話の中でだ。17世紀の哲学者ウィリアム・モリヌーがジョン・ロックにこう問うたという。

「生まれながらの盲人が、手で立方体と球体を識別することを学んだとする。そのひとが視力を取り戻したとき、触らずに……どちらが球体でどちらが立方体かを見わけることができるだろうか。」(122ページ) 

この話の男性は、視力を取り戻したが、さて彼は触覚で識別したものを視覚でも見分けられただろうか。私はできるだろうと思った(というか、できないということが想像できなかった)。しかし驚くべきかな、答えは否なのである!

私たちが当たり前だと思っているものも、通常とは異なる世界にいた人の中では成り立たないのだ。私たちが彼の知覚を想像しようにも、できないのである。

人間とその知能について、興味深い実例と洞察を得られる本である。

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