眺めるだけでも楽しいJ.ニールセン著「ウェブ・ユーザビリティ」

師走の訪れとともに冬学期(=3学期)が始まって、新しいことにも挑戦して、そして急に寒くなったせいで風邪をひいて、本を読む時間がこま切れになってしまいました。3日前まで鼻を垂らしながら読んでいた本は、先月13日の記事で紹介した本に言及されていた、ウェブサイトの使いやすさに関するものです。

ウェブ・ユーザビリティ―顧客を逃がさないサイトづくりの秘訣 [単行本(ソフトカバー)] / ヤコブ ニールセン, 篠原 稔和 (著); グエル (翻訳); エムディエヌコーポレーション (刊)



そのときの記事でも書いたように、私はウェブデザイン「鑑賞」が好きで、クールなデザインのサイトに出会うと、それだけで嬉しくなっちゃって、逆に、簡素なHTMLで書かれたような一昔前のデザインのサイトを見ていると、ストレスが溜まります。例えば、「ブクレコ」というソーシャルブックコミュニティーや、Harvard Universityや、Appleのサイトは、は洗練されていて、最先端のデザインなので好きですが、私も何度か行っている新宿の書道用具店「キョー和」のサイトは、お言葉ですが洗練されているとはお世辞にも言えません。

本書は、ユーザーに使いやすいウェブサイトを作るテクニックを、300ページ以上にわたって網羅的に書いた、教科書的な本です。実際のサイトのスクリーンショットもたくさん載せ、その良い点や悪い点の指摘もしており、当時のデザインをビジュアルで知ることもできます。

著者と出版年にも注目です。著者のヤコブ・ニールセンは、インターネットの普及以前からユーザビリティの研究をしており、ウェブ・ユーザビリティの最初期の、最も有名な専門家の一人です。出版年は、原本、邦訳ともに2000年で、ICU図書館でもざっと見てみましたが、この類の本はそれ以前にはほぼ皆無でしょう。(当時のインターネットの普及度から見てもそう言えそうです。)類書は山ほどありましたが、本書が最も基本的でバイブル的な存在でしょう。本書で指摘されていることのほとんどが、今は達成されていることを考えれば、ニールセンの先見の明、または影響が窺い知れます。90年代後半というと、Googleがβ版の時代、800x600以下のPC画面サイズが7割近い時代でした。(このサイズは00年代後半に携帯電話に抜かれてしまいます。)

私はニールセンの意見にほぼことごとく賛成です。まあですから刺激的な読書だったかと言えばそうでもないですし、単なる私の好みの再確認に過ぎないかもしれませんが、それでもとても内容が濃く、楽しい本です。

以上が本書の概説でした。以下もう少し細かく、興味深かったことと気になったことを箇条書きします。

・十数年前は接続速度が桁違いに遅かったので、ページを開くのに数十秒も待つというのはざらだったようです。そのためページサイズをなるべく小さくする方法が詳しく書かれていたり、英語版の著者のプロフィールに、「彼のサイトはテキストのみで、とっても速く動きます。(CR訳)」というジョークまで書かれていたりするほどでしたが、今や時代は全く変わりましたね。(実は彼のサイトはいまだにテキストのみです。その理由は、彼自身デザイナーではないのでデザインにお金を掛けたくないし、わざと時代遅れのデザインにして過度な装飾のサイトを非難している、ということだそうです。(参考:本人による説明ガーディアン紙の記事))

このちょっと面白い例があります。東大の非公式情報サイト「UTnavi.info」に、1998年から今年2011年までの駒場祭の歴代ウェブサイトへのリンクがあります。一番古い98年のと、今年のを比べると、情報量の増加とデザインの進歩に感嘆せずにはいられません。

・英語の原本も借りて比較してみましたが、元はオールカラーなのに、邦訳はオール白黒。画像も何枚か削られていて、原本の最後の数ページの章、「Recommended Readings」は丸ごと無くなっています。(まあこれは翻訳の性質上しょうがないか。)あまり歓迎されたことではありませんね。

・著者が「Macが消える」と予測したのは面白い。実際は正反対で、今Macは(日本ではまだそうでもないけど)世界のスタンダードみたくなっていますね。

・最後にもう1つ。全体を通して気になったことですが、文章が下手。著者のせいか訳者のせいか、断定はできませんが、訳者のせいだろこりゃ、というところが多かったですね。しかも、誤訳をとりあえず1つ見つけました。日本語が変だったので、元に当たってみたら、やっぱり(そこじゃなかったけど)その周辺で訳し間違えてました。著作権の問題があると思うので、本文は載せませんが、原本385ページの最初の2文(邦訳331ページの最初の2文)は、私なら、「ウェブは印刷物ではないし、ホームページは雑誌の表紙ではない。」と訳します。自信ありです。

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